■歴史を受け継ぎ、次代へと繋げる
私が福善寺の第18代住職に就任したのは1989(平成元)年。前年の1988(昭和63)年に築地本願寺に奉職したばかりでしたから、突然のことでした。この地で生まれ育った私にとって、境内は格好の遊び場でしたし、いずれはこの場所を継いでいくという思いで過ごしてきたものの、21歳という若さでの着任は心配もありました。
あれから時が経ち、数年前には在職30周年の表彰をしていただきました。坊守と二人三脚で、学びながら寺を守ってまいりましたが、振り返ればあっという間でしたね。
私たちが大切にしてきたのは、歴史を受け継ぎつつも時代に合わせた文化をつくり、次の世代へと繋げていくことです。例えば本堂に椅子を入れることも挑戦でした。椅子を入れることで参拝者人数に限りがでますし、それまでは正座をしていただくのが慣習でしたから。しかし、時代の流れに合わせて思い切って椅子を導入してみたんです。すると、法事で初めて福善寺を訪れた方に大変喜んでいただけたんですよね。その言葉を聞き、本当に良かったと思いました。
また、坊守とともに特に力を入れてきたのは、地域の子どもたちと関わりを持つことです。現在は新型コロナウィルスの流行により実施できておりませんが、夏には境内を開放し、流しそうめんをしたり、大道芸人を呼んで芸を披露いただいたり、風船でいっぱいにした広間で遊んでもらったり、本堂で献花をしてもらうなど、寺に親しみを持っていただきたいという想いのもとで、夏祭りイベントを開催しておりました。
坊守が学習塾を運営しているのも、その一環です。幼稚園生から中学生までの生徒さんが在籍しており、開校してから13年になります。生徒さんは、門徒のお子さんもいらっしゃいますが、そうでない子もたくさんです。嬉しいのは、卒業した後も会いに来てくれること。子どもたちにとって、いつになっても集える、思い出の場所であることを誇りに思います。
■子どもたちの笑い声が聞こえる、親しみやすいお寺として
お彼岸やお盆にお参りして、本堂にも参拝してから、庫裏(くり※)でお茶と共にお話をして帰るというのも福善寺で古くから続く習慣です。そして私たちも先代から引き継ぎ、大切にしていることです。現在もご門徒さんの多くの方々が、お墓参りにいらっしゃいます。ですから、お盆やお彼岸の時期は大賑わい。お子さんやお孫さんと一緒に来られる方が多いので、お菓子やおもちゃも用意しています。子どもたちにとって、お寺にお参りにいくことが楽しい記憶になってもらえたらという思いがあります。
※庫裏:お寺の本堂以外の場所。居住スペースや客間などのこと。
かつて、お寺と地域の人々との間には距離がありました。でも私たちは、同じ目線で同じように過ごしていきたいと思ってきました。お寺を身近なものに感じていただくために、子どもたちにも親しんでもらえるような寺にすること。そうすることで、次の世代にもつながっていくのではないかと思っています。
後継である長男は、現在は築地本願寺に奉職しています。私たちが私たちのやり方を模索しながら寺を守ってきたように、彼なりのやり方で、歴史を守りつつ新しい時代に求められる寺に変革していってもらえたら嬉しいですね。そのためにも、私は早めに引退したいと思っているのですが、坊守にはもっともっと頑張ってと言われています。これからも地域の皆さんと子どもたちの笑顔を見続けていけたらと思います。