■兄の見舞いで始まった阿弥陀如来さまの光明
私が住職になって7年目を迎えましたが、あるときまで仏教やお寺とほとんど縁のない生活を送っていました。家系は浄土真宗ですが、私自身はそこまで熱心な門徒ではなく、小学校で教鞭を執っていたのです。
50代の頃のある日、私をかわいがってくれた年上の兄が67歳の若さで亡くなりました。生前の兄は、横浜北部にある病室から生まれ故郷のある西のほうに向かって手を合わせていたことを覚えています。兄は故郷と重ね合わせて、浄土真宗の仏様に手を合わせていたのでしょう。骨髄がんですでに手遅れだった兄に私は何もできませんでした。そして私は仏教を学び、仏様と遭わせていただくことで心の苦しみから抜け出すきっかけになるのではないかと考え、定年退職後に仏教を本格的に学ぶようになったのです。
浄土真宗は、鎌倉時代に親鸞様が開いた教えです。阿弥陀様をご本尊とし、本願力(すべての人々を救う絶対的な力)によって信心が授けられることで自然に「南無阿弥陀仏」の念仏を称え、死後は極楽浄土で仏となり、今度は人々を救う手助けをするためにこの世に帰ってくる、という教えが骨子です。
そして阿弥陀様は、私たちのように苦しみをかかえて生きるものを救わずにはおられず、「安心せよ。あなたの人生、必ず実りあるものにするから心配するな、大丈夫だよ」と呼びかけ、摂めとってくださっているのです。私も阿弥陀様に救われた一人です。
■門徒さんとともに学び、お寺を守る
退職してから12年が経過し、ご縁があって第25代の住職となりました。その間に正念寺の門徒さんには境内の清掃や管理などいろいろとご協力をいただき、2018(平成30)年には多大なる寄付とご協力で立派な庫裏と客殿をつくっていただきました。歴史を紐解くと、正念寺の門徒さんは昔から熱心でいられ、1959(昭和34)年に伊勢湾台風で本堂が全壊したときも門徒さんのご協力のもとでお寺を継続することができたのです。今では正念寺を守っていこうという気持ちがより強くなり、門徒さんには浄土真宗の教えを深く広めていきたいと考えています。
浄土真宗はすべての人々が阿弥陀如来によって救われていく「絶対他力」の教えのため、習慣行事にあまりとらわれないのが特色です。法話会をはじめとしたいろいろなイベントを開催していますので、興味のある方は門徒さん意外でも参加していただきたいですね。
藤野はアートの町として町づくりが行われていて、芸術の道の散策やアートビレッジを楽しむことができます。そんな自然豊かな土地にある正念寺は、樹齢300年と伝わるしだれ桜、阿弥陀様と熊野神社社殿を描いた垂迹画の絹本着色熊野権現影向図、物部氏との戦いの中での14歳のときの聖徳太子を表現したといわれる聖徳太子騎馬像の3つの宝が受け継がれています。特にしだれ桜は見事ですので、お近くに来られた際はぜひお寄りください。